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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)355号 判決 1995年11月13日

東京都品川区東五反田一丁目一二番一〇号

原告

株式会社エスデイシイ

右代表者代表取締役

吉川忠佑

右訴訟代理人弁護士

寺本吉男

東京都港区高輪三丁目一三番二二号

被告

品川税務署長 池田明治

右指定代理人

小尾仁

渡辺進

倉嶋充

植松香一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  渋谷税務署長が平成五年二月二六日付けで原告に対してした、

(一) 平成元年三月一日から平成二年二月二八日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額六四四一万九三三七円、納付すべき税額二一三四万五四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額五〇二一万〇一四七円、還付金の額に相当する税額六〇万九六八五円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  被告が平成五年五月三一日付けで原告に対してした、平成三年三月一日から平成四年二月二九日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額一三四一万一二三三円、還付金の額に相当する税額九〇六万四六八九円を超える部分、同事業年度の法人臨時特別税の更正のうち納付すべき税額五万〇七〇〇円を超える部分、同事業年度の消費税の更正のうち納付すべき税額四一五八万四〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告(旧商号はソフトウエア開発株式会社)は、電子計算機の使用技術開発指導等を目的とする株式会社であるところ、平成元年三月一日から平成二年二月二八日までの事業年度(以下「二年二月期」という。)の法人税につき別表1の「確定申告」欄記載のとおり、平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度(以下「三年二月期」という。)の法人税につき別表2の「確定申告」欄記載のとおり、平成三年三月一日から平成四年二月二九日までの事業年度(以下「四年二月期」といい、右の三事業年度を一括して「係争各事業年度」という。)の法人税につき別表3の「確定申告」欄記載のとおり、それぞれ確定申告をした。

2  渋谷税務署長は、平成五年二月二六日付けで、原告に対し、二年二月期の法人税について、別表1の「更正・決定」欄記載のとおり更正(以下「二年二月期更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定を行い、また、三年二月期の法人税について、別表2の「更正・決定」欄記載のとおり更正(以下「三年二月期更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定を行った。

被告は、平成五年五月三一日付けで、原告に対し、四年二月期の法人税、法人臨時特別税及び消費税について、別表3の「更正・決定」欄記載のとおり更正(以下「四年二月期更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定を行った(以下、係争各事業年度に係る各更正を「本件各更正」といい、各過少申告加算税賦課決定を「本件各決定」という。)。

3  本件各更正及び本件各決定に対する異議申立て及び審査請求の経緯は別表1ないし3記載のとおりである。なお、被告は、原告が平成五年三月一日本店を移転したことに伴い、渋谷税務署長から事務を承継したものである。

4  ところで、原告は、昭和六三年一二月二六日、エスティコマース株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、原告が訴外会社から高濱節夫(以下「高濱」という。)の派遣を受け、派遣料として月額五〇〇万円を訴外会社に支払うとの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、その後、平成二年二月二六日、右派遣料を月額八〇〇万円に改訂する合意をした。

そして、原告は、本件契約に基づき、訴外会社に対し、二年二月期中に別表4のとおり合計六一六五万円の派遣料(うち消費税額一六五万円)、三年二月期中に別表5のとおり合計九八八八万円の派遣料(うち消費税額二八八万円)、四年二月期中に別表6のとおり合計九八八八八万円の派遣料(うち消費税額二八八万円)をそれぞれ支払い、これら派遣料(以下「本件派遣料」といい、各事業年度中に支払われたものを「二年二月期派遣料」などという。)のうち、消費税額を除いた金額を損金の額に算入し、消費税額を仮払消費税として損金の額に算入しないで係争各事業年度の所得金額を計算し(原告は、消費税の経理処理について税抜経理方式をとっていた。)、法人税の申告をしていたものである。

5  ところが、本件各更正は、本件派遣料を寄付金に該当すると認定しその損金算入限度額を超える損金算入を否認したものであって、いずれも誤った右認定に基づき原告の所得金額を過大に認定した違法があり、また、本件各決定も右違法な本件各更正を前提とするもので違法であるから、原告は、それら処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認容

請求原因は1ないし4の各事実は認めるが、同5は争う。

三  抗弁

1  本件派遣料の性質

(一) 原告は昭和四六年二月一八日に設立されたが、高濱は、設立当初から平成五年三月一日まで原告の代表取締役の地位にあり、係争各事業年度当時、原告(資本金四億円)の発行済株式八〇万株中六三万七九七〇円(七九・七パーセント)を保有していた者である。

また、高濱は、昭和五四年二月一三日から平成五年三月八日まで、訴外会社の代表取締役の地位にあり、係争各事業年度当時、訴外会社の発行済株式四万株中二万四〇〇〇株(六〇パーセント)を保有していた者である。

(二) 右のとおり、高濱はオーナー株主兼代表者として原告及び訴外会社の経営にあたっていた者であり、このような者が一方の会社から他方の会社に社員(従業員)として派遣されるなどということは考えられないし、実際にも、高濱は、本件契約の前後を通じて、両会社の代表取締役としての業務執行を行っていたのであって、原告が訴外会社から高濱の派遣を受けた実体はなく、本件派遣料は、社員派遣の対価として授受されたものということができないから、法人税法三七条所定の寄付金に該当するというべきである。

2  二年二月期更正の適法性

(一) 寄付金となる本件派遣料の一部の損金不算入

前記1のとおりであるから、二年二月期派遣料六一六五万円のうち、法人税法三七条二項及び同法施行令七三条(平成三年政令第八七号による改正前のもの)によって計算される損金算入限度額を超える金額五九六七万二四四四円は、二年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入できない。

(二) 法人税額から控除する所得税額の加算過大額の認容

原告は、法人税額から控除する所得税額(法人税法四〇条)を九万〇八〇四円過大に所得金額に加算しているので、その額は、二年二月期の所得金額から減算される。

(三) 仮払消費税額の年金認容

寄付金となる二年二月期派遣料のうち仮払消費税とされた部分一六五万円は損金の額に算入される。

(四) 申告所得金額六四四一万九三三七円に右(一)の金額を加え、右(二)及び(三)の金額を減じて計算される原告の二年二月期の所得金額は、一億二二三五万〇九七七円であるから、二年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

3  三年二月期更正の適法性

(一) 寄付金となる本件派遣料の一部の損金不算入

前記1のとおりであるから、三年二月期派遣料九八八八万円のうち、法人税法三七条二項及び同法施行令七三条(平成三年政令第八七号による改正前のもの)によって計算される損金算入限度額を超える金額九六九〇万四四六六円は、三年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入できない。

(二) 交際費等の損金不算入

消費税課税割合が九五パーセント未満となることに伴い、交際費等に係る消費税七万四五六三円に対する控除対象外消費税四一六一円は、交際費等の損金不算入額として、三年二月期の所得金額に加算される。

(三) 仮払消費税額の損金認容

寄付金となる三年二月期派遣料のうち仮払消費税とされた部分二八八万円は損金の額に算入される。

(四) 経費に係る控除対象外消費税の損金認容

消費税割合が九五パーセント未満となることに伴い、経費に係る消費税についての控除対象外消費税一九万八七七一円は損金の額に算入される。

(五) 未納事業税の損金認容

二年二月期更正に係る所得金額に基づいて原告が新たに納付すべきこととなる事業税額六九五万一七〇〇円は、三年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入される。

(六) 申告所得金額五〇二一万〇一四七円に右(一)及び(二)の金額を加え、右(三)ないし(五)の金額を減じて計算される原告の三年二月期の所得金額は、一億三七〇八万八三〇三円であるから、三年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

4  四年二月期更正の適法性

(一) 寄付金となる本件派遣料の一部の損金不算入

前記1のとおりであるから、四年二月期派遣料九八八八万円のうち、法人税法三七条二項及び同法施行令七三条によって計算される損金算入限度額を超える金額九七二八万五一四五円は、四年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入できない。

(二) たな卸計上もれ等の加算

次の(1)ないし(3)の合計三三一万四五〇二円は、四年二月期の所得金額に加算される。

(1) 原告が損金計上した成田・ニューヨーク間のオープンチケット代金三〇六万二七一八円(期末までに使用されなかったものである。)。

(2) 訴外コルベシステム株式会社に対する売上計上もれ一三万二一四六円

(3) 原告が損金計上した平成三年五月分の定期代に係る仮払消費税一一万九六三八円

(三) 仮払消費税額の損金認容

寄付金となる四年二月期派遣料のうち仮払消費税とされた部分二八八万円は損金の額に算入される。

(四) 福利厚生費計上もれの損金認容

四年二月期の社会保険料について誤って仮払消費税としていた六一万八一九三円は、四年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入される。

(五) 未納事業税の損金認容

三年二月期更正に係る所得金額に基づいて原告が新たに納付すべきこととなる事業税額一〇四二万五三〇〇円は、四年二月期の所得金額の計算上損金の額に算入される。

(六) 申告所得金額一三四一万一二三三円に右(一)及び(二)の金額を加え、右(三)ないし(五)の金額を減じて計算される原告の四年二月期の所得金額は、一億〇〇〇八万七三八七円であるから、四年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

(七) 納付すべき法人臨時特別税額

(1) 原告が申告した四年二月期の法人臨時特別税の基準法人税額は五〇二万九一二五円である。

(2) 右申告額に、四年二月期更正により増加した法人税額三二五〇万三五〇〇円を加えた三七五三万二六二五円から三〇〇万円を控除した三四五三万二〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切捨て)が、法人臨時特別税の課税標準税額となり、これに二・五パーセントを乗じた八六万三三〇〇円が法人臨時特別税額となるから、四年二月期更正に係る法人臨時特別税額は適法に算出されたものである。

(八) 納付すべき消費税額

原告が四年二月期の消費税として納付すべき税額は、別表7の<1>欄記載の確定申告に係る納付税額に、同表<2>ないし<6>欄記載の各金額を加算・減算した同表<7>欄記載の金額である。

なお、同表<3>の二八八万円は寄付金となる四年二月期派遣料に係る消費税額(消費税不課税取引)として控除対象仕入税額に該当しないものであって、四年二月期更正に係る消費税額(同表<7>欄記載の四四九二万二三〇〇円)は適法に算出されたものである。

5  本件各決定の適法性

本件各決定は、本件各更正によって原告が新たに納付すべきこととなった法人税額、法人臨時特別税額及び消費税額を基礎として、国税通則法六五条一項、二項に従って適法に算出された過少申告加算税を賦課するものである。

四  抗弁に対する認否及び反論

(認否)

1 抗弁1(一)の事実のうち、高濱が係争各事業年度当時原告の発行済株式のうち六三万七九七〇株(七九・七パーセント)を保有していたとの事実は否認するが、その余の事実は認め、同(二)は否認する。

高濱は、係争各事業年度当時、原告の発行済株式総数八〇万株のうち五九万九三三〇株を保有していたものである。

なお、高濱は、現在は、原告の株式も訴外会社の株式も保有していない。

2 抗弁2(一)は否認し、(二)は認め、(三)及び(四)は争う。

3 抗弁3のうち、(一)は否認し、(二)及び(四)は認め、(三)、(五)及び(六)は争う。

4(一) 抗弁4のうち、(一)は否認し、(二)及び(四)は認め、(三)、(五)及び(六)は争う。

(二) 抗弁4(七)のうち、(1)の事実は認め、(2)は争う。

(三) 抗弁4(八)のうち、原告の確定申告に係る消費税の納付税額が別表7の<1>欄記載のとおりであること、右<1>欄記載の納付税額に同表<2>、<4>ないし<6>の各欄記載の金額を加算・減算(同表<7>欄記載のとおり)して納付すべき消費税額を計算すべきことは認めるが、同表<3>欄記載の四年二月期派遣料については争う。

5 抗弁5は争う。

(本件派遣料に関する反論)

高濱は、原告と訴外会社の従業員であったが、原告を退社したうえ、本件契約により、訴外会社の派遣社員として原告の業務に従事することとなったところ、原告は、派遣社員である高濱を、原告の財務・経営事項の合理化作業や株式上場のための準備作業などの極めて重要な業務に従事させ、実質的には経営者として手腕を発揮してもらうことにし、あわせて高濱の対外的信用を利用して原告の信用を高めるため、株主総会の決議により、高濱を取締役に選任し、取締役会の決議により、高濱を代表取締役に選任したものであるが、原告においては高濱に一切の報酬を支払わない代わり、訴外会社に本件派遣料を支払うことになったものである。

このように、会社間で社員の派遣が行われ、その派遣料が支払われることは何ら不自然なことではないし、その場合の派遣料の金額は会社間の合意により自由に定めることができるから、本件派遣料は派遣の対価として損金の額に算入されるべきである。

被告の主張によれば、原告との関係では本件派遣料が損金と認定されないのに、訴外会社との関係ではこれが益金と認定されることになり、二重課税の結果を招くこととなるものであって、このような結果を招く法解釈は違法というべきであるし、また、本件各更正に先立つ税務調査においては、本件派遣料の多寡が問題とされていたのに、突然、派遣の事実を否定して本件各更正がされたことは、禁反言の法理に反するともいえるものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

第二本件派遣料の性質等について

一  抗弁1(一)の事実は、高濱が係争各事業年度当時保有していた原告の株式数を除き当事者間に争いがない。

二  右の争いのない事実に、成立に争いのない乙第一号証、証人高濱節夫の証言(後記措信しない部分を除く。)及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第七号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  原告は、昭和四六年二月一八日資本金五〇〇万円で設立された電子計算機の使用技術開発指導、情報処理等を目的とする株式会社であり、その後、数度にわたって増資を繰り返し、平成元年当時は、資本金四億円、従業員約五〇〇人という規模の会社であった。

高濱は、設立当初から原告の株式の大部分を保有し、係争各事業年度当時も発行済株式八〇万株のうち五九万九三〇〇株(七五パーセント)を保有していたものであり、設立当初から平成五年三月一日に退任するまで原告の代表取締役として原告の経営にあたっていた。

2  訴外会社は、昭和五一年一月一七日資本金五〇〇万円(昭和五三年に二〇〇〇万円増資)で設立された不動産の売買・賃貸借等を目的とする原告の関連会社であり、係争各事業年度当時、その従業員数も数名程度の小規模な会社であった。

高濱は、訴外会社の設立当初からの株主であったが、係争各事業年度当時も、その発行済株式四万株のうち二万四〇〇〇株(六〇パーセント)を保有しており、昭和五四年二月一三日から平成五年三月八日に退社するまで訴外会社の代表取締役の地位にあって(昭和五四年二月一三日までは高濱の父が代表取締役であった。)、その経営にあたっていた。

3  原告及び訴外会社は、いずれも、設立当初から高濱が代表取締役を退任するころまでの間、高濱及びその家族が株式を保有する同族会社であり、両会社の役員も高濱及びその家族によって占められ、高濱は、両会社を事実上所有する代表取締役として、両会社の経営の実権を掌握し、その業務執行全般を取り仕切っていたものである。

なお、原告の関連会社としては、訴外会社以外にもエスデイシイエレクトロニクス株式会社(設立時の商号は「エスデイシイサービス株式会社」であり、さらに平成五年三月に「ソフトウエア開発株式会社」に商号変更されている。以下「エレクトロニクス社」という。)があり、高濱は、係争各事業年度当時、エレクトロニクス社の代表取締役も務めていた。

4  高濱は、昭和六三年末までは、原告から月額一五〇万円程度、訴外会社から月額一〇万円程度の役員報酬の支払を受けていたが、本件契約によって訴外会社から原告に派遣されたとする昭和六四年一月一日以後は、原告からは役員報酬の支払を受けないで、もっぱら訴外会社から月額一六〇万円程度の役員報酬を受けるようになった。

また、訴外会社からは、高濱以外の役員も、高濱と同様、原告に派遣されたものとされ、原告は、それらの者についての派遣料も訴外会社に支払っており、本件派遣料を含め訴外会社に対して支払われた派遣料の総額(消費税とされた額を除く)は、二年二月期分が一億三二〇万円(うち高濱分六〇〇〇万円)、三年二月期及び四年二月期分が各一億九九二〇万円(うち高濱分が各九六〇〇万円)であった。なお、訴外会社はエレクトロニクス社にも高濱を派遣したとして、同社からも派遣料の支払を受けていた。

5  ところで、訴外会社は、昭和六一年ころ以降その収支が悪化し、平成元年には約一八〇〇万円の欠損を生じ、平成二年ないし平成四年には、銀行からの借入金が約一〇億円にも及び、その借入利子の支払のための資金手当を必要としていた状況にあったが、他方、原告は、昭和六二年から係争各事業年度当時にかけて、かなりの利益をあげており、経営状況は良好であった。そして、訴外会社は、原告及びエレクトロニクス社から派遣料が支払われたことにより、その平成二年ないし平成四年の各事業年度において、約二三〇万円ないし約一八〇〇万円の所得を挙げたが、繰越欠損金を有していたため、いずれの年度も繰越欠損金控除額の所得金額は零円となっている。

6  高濱は、前記のとおり、原告の設立以来の代表取締役であり、本件契約の締結にあたってその地位を退いたこともなく、本件契約締結後も、それまでと同様、原告の代表取締役として原告の経営者にあたっていたものであり、その具体的な業務の内容も、代表取締役として業務全般にわたるものであって、特に代表取締役としての業務とは別に、派遣社員としての特別の業務に従事したということはできず、本件契約締結の前と後とで、高濱が原告において行う業務の内容が変化したというわけではなかった。

三  以上のとおり認められ、前掲甲第七号証及び証人高濱節夫の証言中には、訴外会社から原告への高濱の派遣は、関連企業(原告、訴外会社及びエレクトロニクス社)と業務分担に応じた各経営の分離、独立及び株式の店頭登録の準備を行う必要があったため実施されたものであり、高濱は、原告において、代表取締役としての業務のほかに、派遣社員としてそれらの業務を行った旨の記載及び供述部分があるが、いずれも曖昧で具体性を欠いているのみならず、実際に関連企業三社の分離・独立や株式の店頭登録の作業を具体的に進行していたことを窺わせる客観的な証拠も見当たらないのであって、右記載及び供述部分は、にわかに採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  右認定したとおり、高濱は、本件契約の時点で既に原告と訴外会社の各代表取締役として両会社の経営にあたっていた者であるから、本件契約によってわざわざ訴外会社から原告に派遣されなければならない理由も必要もなかったというべきであるし、本件契約は、原告にとって、わざわざ派遣料を支払って、もともと自社の代表取締役である高濱の派遣を受けるという極めて不自然、不合理なものであるなど、前記認定の諸事実からすれば、本件において、高濱が訴外会社から原告に派遣されたという実体は存在していないというべきであって、本件契約は、訴外会社が原告から派遣料名目で金員の支払を受けるために、訴外会社から原告へ高濱を派遣したことにするという形をとったものにすぎないとみるのが相当であり、本件契約がされたことをもって高濱の派遣の事実を認めることはできない。

五  右のとおり、訴外会社から原告への高濱の派遣の事実はこれを認めることができないから、本件派遣料の支払は、高濱の派遣を受けたことの対価の支払ということはできず、法人税法三七条にいう寄付金に該当するといわなければならない。

そうすると、本件派遣料は、消費税が課税される取引の対価として支払われたものとはいえないから、原告としては、寄付金となる本件派遣料の全額を損金計上して損益計算をすべきであり、そのうえで、右の寄付金額のうち損金算入限度額を超える部分を損金に算入しないで係争各事業年度の法人税の課税標準となる所得金額を計算すべきことになるというべきである。そして、原告の資本の金額及び後記の所得金額に徴すれば、原告の係争各事業年度における損金算入額は、二年二月期につき一九七万七五五六円、三年二月期につき一九七万五五三四円、四年二月期につき一五九万四八五五円であることが認められるから、右各期に支払われた本件派遣料のうち、右損金算入限度額を超える金額は、いずれもその所得金額の計算上損金の額に算入することができないこととなる。

六  なお、原告は、本件派遣料が原告との関係では損金と認定されないのに、訴外会社との関係では益金とされることは二重課税となる旨主張するが、本件派遣料については、寄付金に該当するためその損金算入限度額を超える部分が所得金額の計算上損金の額に算入されないこととなるのに対し、訴外会社にとっては、原告から支払を受けた右寄付金が当該事業年度の収益として益金の額に算入されることになるのは当然であり、これをもって二重課税ということができないことは明らかである。また、原告は、税務調査の段階では本件派遣料の多寡が問題とされており、更正の段階で派遣の事実を否定することは禁反言の法理に反する旨主張しているが、仮に、税務調査の段階で原告主張のような点が問題とされていたとしても、だからといって、派遣の事実を否定して更正することが禁反言の法理に反することになるということはできず、原告の右主張は採用の限りではない。

第三二年二月期更正の適法性について

抗弁2(二)の事実は当事者間に争いがないから、原告の二年二月期の所得金額は、その申告所得金額六四四一万九三三七円に、寄付金(二年二月期派遣料)六一六五万円のうち損金算入限度額を超える五九六七万二四四四円(損金不算入額)を加算したうえ、所得税額控除加算過大額九万〇八〇四円及び二年二月期派遣料中の仮払消費税とされた一六五万円(本件派遣料を寄付金と認定しこことから、本件派遣料のうち税抜経理方式で処理されていた仮払消費税の額を損金に算入することとしたものである。三年二月期更正及び四年二月期更正においても同じ。)を減じた一億二二三五万〇九七七円となる。

したがって、二年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

第四三年二月期更正の適法性について

抗弁3(二)及び(四)の事実は当事者間に争いがなく、また、弁論の全趣旨によれば、二年二月期更正に係る所得金額に基づいて原告が新たに納付すべきこととなる事業税額は六九五万一七〇〇円であることが認められるところ、前事業年度の法人税の更正によって生じることになった未納事業税額については、当該条年度の損金の額に算入するのが相当である(四年二月期も同様である。)。

そうすると、原告の三年二月期の所得金額は、その申告所得金額五〇二一万〇一四七円に、寄付金(三年二月期派遣料)九八八八万円のうち損金算入限度額を超える九六九〇万四四六六円(損金不算入額)及び交際費等の損金不算入額四一六一円を加算したうえ、三年二月期派遣料中の仮払消費税とされた二八八万円(損金算入額)、経費に係る控除対象外消費税額一九万八七七一円(損金算入額)及び前記未納事業税額六九五万一七〇〇円を減じた一億三七〇八万八三〇三円となる。

したがって、三年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

第五四年二月期更正の適法性について

一  法人税について

抗弁4(二)及び(四)の事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば三年二月期更正に係る所得金額に基づいて原告が新たに納付すべきこととなる事業税額は一〇四二万五三〇〇円であることが認められる。

そうすると、原告の四年二月期の所得金額は、その申告所得金額一三四一万一二三三円に、寄付金(四年二月期派遣料)九八八八万円のうち損金算入限度額を超える九七二八万五一四五円(損金不算入額)及びたな卸計上もれ金額等三三一万四五〇二円(損金不算入額)を加算したうえ、四年二月期派遣料中の支払消費税とされた二八八万円(損金算入額)、福利厚生費計上もれ金額六一万八一九三円(損金算入額)及び前記未納事業税額一〇四二万五三〇〇円を減じた一億〇〇〇八万七三八七円となる。

したがって、四年二月期更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

二  法人臨時特別税額について

抗弁4(七)(1)の事実は当事者間に争いがなく、湾岸地域における平和回復活動を支援するため平成二年度において緊急に講ずべき財政上の措置に必要な財源の確保に係る臨時措置に関する法律(平成三年法律第二号)によれば、原告の申告に係る四年二月期の法人臨時特別税の基準法人税額五〇二万九一二五円に、四年二月期更正により増加した法人税額(その金額が三二五〇万三五〇〇円であることは弁論の全趣旨によって認められる。)を加えた三七五三万二六二五円から三〇〇万円を控除した三四五三万二〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切捨て)が、法人臨時特別税の課税標準となり、これに二・五パーセントを乗じた八六万三三〇〇円が法人臨時特別税額となるから、四年二月期の法人臨時特別税に係る更正は適法である。

三  消費税額について

抗弁4(八)のうち、原告の確定申告に係る消費税の納付税額が別表7の<1>欄記載のとおりであること、右<1>欄記載の納付税額に同表<2>、<4>ないし<6>の各欄記載の金額を加算・減算(同表<7>欄記載のとおり)して納付すべき消費税額を計算すべきことは当事者間に争いがない。

そして、前記のとおり、同表<3>欄記載の四年二月期派遣料中の仮払消費税とされた二八八万円は、仮借受消費税額から控除すべき仮払消費税額に含まれないので、右二八八万円を加算して納付すべき消費税額を計算すべきことになる。

したがって、四年二月期の原告が納付すべき消費税額は、同表<1>ないし<6>の各欄記載の金額を同表<7>欄記載のとおり加算・減算した四四九二万二三〇〇円となるから、四年二月期の消費税に係る更正は適法である。

第六本件各決定の適法性

本件各決定は、本件各更正によって原告が新たに納付すべきこととなった法人税額、法人臨時特別税額及び消費税額を基礎として、国税通則法六五条一項、二項に従って適法に算出された過少申告加算税を賦課するものと認められる。

第七結論

以上の次第で、本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久雄 裁判官 橋詰均 裁判官 徳岡治)

【別表1】

平成二年二月期(自平成元年三月一日至同二年二月二八日事業年度分)更正処分等の経緯

<省略>

【別表2】

平成三年二月期(自平成二年三月一日至同三年二月二八日事業年度分)更正処分等の経緯

<省略>

【別表3】

平成四年二月期(自平成三年三月一日至同四年二月二九日事業年度分)各更正処分等の経緯

<省略>

【別表4】

平成2年2月期

<省略>

【別表5】

平成3年2月期

<省略>

【別表6】

平成4年2月期

<省略>

【別表7】

<省略>

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